2007年 12月 22日
北里義之著『サウンド・アナトミア』 |
高柳昌行と音響派を今日的に読み解く。北里義之著『サウンド・アナトミア 高柳昌行の探究と音響の起源』(青土社)は、音楽評ではなく、高柳昌行の著作集である『汎音楽論集』(月曜社)や大谷能生の「ジョン・ケージは関係ない」への応答ともいえるテキスト・クリティークである。その「ミュージシャンが音楽創造に向かう際、意識的・無意識的とを問わず前提とせざるをえない言語環境を、改めてむきだしにする試み」は、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)であるミクシイに日記として日々エントリーされていった。本格的評論の発表の場としては極めて異例であったが、音楽雑誌等の間隙をつくようにして話題となり、大友良英の強力な推薦によって遂に単稿本化されることとなった。質の高い人文書を多く出版している青土社らしい編集、再構成が、ミクシイ上の単なるテキストに一冊の人文書というカタチを与えた。音楽書ではこれまた異例であるが、在宅介護を選んだ著者の日常を綴ったエッセイが「幕間」という形で挿入されることで、論考と日々の介護生活が思考回路で緊密に繋がっていることが図らずも露わになり、著者の立脚点が名確に示されている。大友良英だけではなく反批評の対象となった大谷能生もその著書『貧しい音楽』(月曜社)の中で単行本化を望むという旨を書いている。人文書としても十分通用する北里のテキストは、音楽評論に新機軸を持ち込んだといっていい。
by kazuey1113
| 2007-12-22 13:19
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