横井一江のブログ "jazz,improvised music...and beyond"


by kazuey1113

古谷暢康『Stunde Null』

c0098087_20243268.jpg最初の一音で「これはやられた!」と思った。全くもってフリージャズ、だがしかし不思議なくらい「今」を生きる者の音であり、ビシビシと迫ってくる音なのだ。フリージャズというと既にアーカイヴ、あるいは時代を生き延びた猛者達の説話だと思っていたがどうして、裏通りでこういうふうに生き延びていたんだと、古谷暢康『Stunde Null』(地底レコード)を聴きながら思った。いろいろなサックス奏者の顔が浮かんできたりもしたのだが、それに言及するのは邪道だろう。仮に彼らから吸収したものがあったにせよ、そこにあるのは紛れもない古谷の音なのだから。楽器による表現の豊かさ、構成力にはただ者ではないことを伺わせる。

ずっと昔に同じようなことを感じたことがある。それはジェームズ・カーターを最初に聴いた時だった。1990年、ベースとドラムスとのトリオでメールス・ジャズ祭に出演した彼は、これでもかというくらい吹きまくっていたのだ。今となっては信じられないかもしれないが…。その音の中には先人達の影が見え隠れしてきこえたことも、それでいながら誰でもないカーターの音だったことも。しかし、私の期待とは違う道をカーターは選択したのだ…。

c0098087_21325035.jpg古谷暢康は、昨年『Bendowa』(Clean Feed)でCDデビューしたサックス奏者だ。彼は10年くらい前にヨーロッパに渡り、東欧諸国、イスタンブル、ベルリンなどを経て、リスボンに住んでいる。少し前にポルトガルのシーンは熱いと耳にしたりしたが、そこに居たのだ。Bendowaとは『正法眼蔵』の一巻の『弁道話』を意味するのだろうが、古谷の演奏は日本人にありがちな精神性に過度に寄りかかったり、情動的に流れていくだけのものとは一線を画す。CD『Bendowa』はAll About Jazz NYの最優秀デビューアルバムに選ばれている。名前ではなく、その内容で選ぶ審査員がいたということだ。

追)『Bendowa』は国内では入手が難しいが、Clean FeedのHP(英語)からPayPalを使って購入できる。コチラ>>>

彼のCDは、フリージャズ・ファン、あるいはハードコアな音楽に飢えている者、とりすましているけれど中味の薄いジャズに飽き飽きしている人達に特に勧めたい。

これはというフリージャズを聴き終えた時、不思議なくらい清々しい気持ちになることがあるのだが、この『Stunde Null』もそうだった。異端児であるということは正統であるということ。鬼っ子の行方を注視したいと思う。
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by kazuey1113 | 2010-05-27 21:42 | new release