横井一江のブログ "jazz,improvised music...and beyond"


by kazuey1113

マイク・モラスキー著『ジャズ喫茶論』

c0098087_2239192.jpg評判となった『戦後日本のジャズ文化』(青土社)の続編か、はたまた後藤雅洋著『ジャズ喫茶 リアル・ヒストリー』(河出書房新社)に対する回答か。

マイク・モラススキーの日本のジャズ文化論第2作『ジャズ喫茶論 戦後の日本文化を歩く』(筑摩書房)が刊行された。

日本文化研究者でピアニストでもある著者によるジャズ喫茶論は、実際に日本全国各地を回り、リサーチしてきた事項に基づいて書かれている。それをまず評価したい。ジャズ喫茶関係者とは一定の距離を保ちつつ、そのキャラクターのよさで懐に入り、また現場に生きる人々を尊重する姿勢があるからこそ、この一冊が出来たのだろう。ジャズ喫茶ともっと身近な、あるいはジャズ喫茶に行くという行為が日常にある人達は、当然ながら異論反論あるというのも容易に想像がつく。それもまたいいではないかと思う。なぜなら、そこに書かれているのは日本の文化であり、我々が自分達の文化に自覚的になるのはよいことだと考えるからだ。

映画『Play Your Own Thing』だったと思う。戦後パリ、サン=ジェルマン・デ・プレにあったタブーという店があった地下へ通じる階段が撮し出されていた。ビバップの時代、詩の朗読などの他にジャズが演奏されていた店で、ボリス・ヴィアンも関わっていた場所だ。それがなんともジャズ喫茶に通じる階段のイメージに似通っていたのだ。だが、日本のジャズ喫茶ではストイックにレコードを観賞していたのとは違い、そこではライブが行われていた。

ジャズ喫茶でのジャズ・レコード観賞、それは日本独特の音楽聴取形態であり、またかつてジャズ喫茶は一種のメディアとしての役割を担っていた。日本と欧米ではジャズの受容され方が随分と違うのだが、そのひとつの要因にジャズ喫茶のもたらしたものがあると考える。それには、なぜ日本にだけジャズ喫茶がある時期に各地に沢山出来たのかということから検証されなければいけないのだろう。

戦後ヨーロッパのジャズ・シーンで、ラジオやフェスティヴァルの果たした役割が大きかったのと同様、日本ではジャズ喫茶の果たした役割もまた大きかったと考えられる。そのジャズ・シーンに与えた影響と功罪を比較文化的に捉えたらさぞかし面白いだろうな、と思った。そこにまた、今や絶滅危惧種になりつつあるジャズ喫茶の今日的あり方が隠されていると考えるのは私だけだろうか。

一種のノスタルジーにすぎないかもしれないが、昔ながらの空間に身を置いた時になにか忘れていた感覚を想い出すということもきっとあるのだろうなと思いつつ、初めてジャズ喫茶に入った三十数年前にタイムスリップするのも悪くないと感じた。実はジャズ喫茶も変容している。レトロな空気感のある店は東京にまだあるのだろうか。
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by kazuey1113 | 2010-03-21 23:37 | new release